人工知能(AI)研究の歴史と展望を教えてもらって
2020.08.15
読書と修養
『ディープラーニング革命』という本を読んだ。人工知能(AI)が機能する根源にあるアルゴリズムらしい(まちがっていたらごめんなさい)。
なんで、こんな本を手に取ることになったのか?それは、私は今、お客様の経営をよくするためには、どのように経営を数字で見える化して、どのようにデータを分析すればよいのかという課題について、もう少ししっかりとした視点を持つ必要があると感じたからである。
それで、アマゾンで、経営の分析とか数値化とか定量分析とかの本を漁っていたときに、ふとアマゾンがこの本を私に示してきた。なんやこれと思って、書評をみたら、えらい高い評価が載っていた。
AIといえば、昭和中期に生まれた、まごう方なき旧石器時代人には、#$★♀♂*だが、素人でもなんとか読めるという推薦文と、やっぱり日ごろスマホやグーグルやFBでお世話になりっぱなしのAIのことぐらい、多少知っとかなあかんやろという心のうずきで買うたものである。
ディープラーニング(以下DLという)というのは、日本語で言うと深層学習といい、つまり人間が学習するパターンを研究して、それで自動運転や音声認識、視覚識別や自動翻訳などの分野を発展させるという、そのベースになる研究分野である。
それはニューラル・ネットワークといって、シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようなモデル全般を指すらしい。つまり人間の脳みその処理方法をコンピューターで再現してさまざまな問題解決をしていこうという試みである。
著者の、テレンス・セーノフスキーという学者の名前はもちろん初めてだが、この世界では著名人であるらしい。
さて、この本の内容であるが、大きく3部構成になっている。
第1部 新たな着想による知能
機械学習の台頭-人工知能の復活―ニューラルネットワークの夜明け-脳型コンピューティング-視覚系からの知見
第2部 さまざまな学習方法
カクテルパーティー問題-ポップフィールド・ネットワークとボルツマンマシン-誤差逆伝搬法-畳み込みネットワークの学習-報酬学習-神経情報処理システムカンファレンス
第3部 テクノロジーと科学の衝撃
機械学習の将来-アルゴリズムの時代―チップス先生こんにちは-情報の中身-意識-自然は私たちよりも賢い-ディープインテリジェンス
つまり、第1部では、DLの発想などの黎明期を、第2部では、その後の考え方革新などの発展の歴史を、そして第3部では現在と将来の展望を、描いている。さすがに、第1部と第2部は、専門的な思考仮説や理論の話がたっぷりでいささか頭がいたく、理解できないことも多々あるが、第3部に入ると俄然お話がおもしろく、スムーズに読める。
アンダーラインを引いた個所をいくつか紹介したい。なんのこっちゃ?と思われるかもしれないが。
・ニューロンの働きとは情報を伝える信号処理であり、計算の理論こそが、自然を理解しようとする際のミッションリンクなのだ。
・生物学では何かを正しく示すということ自体が、めざましい業績だ。
・…子どもが世界のことを学ぶにつれて現れる新しい能力に対して、大脳皮質の漸進的な発達がいかに大きな役割を果たしているかという点を、コネクショニスト・モデルを使って説明した。
・生物としての人間が、私たちの文化を生み出し、逆に文化によって、生物としての人間が形づくられるのだ。
・ドーパミン神経細胞は、意欲を調節する脳機構の中核をなしている。
→そういうたら、ドーパミンが出てくるわあという言葉を聞くなあ
・AIの分野には解決すべき問題がまだたくさんある。まず挙げられるのが、因果関係の問題だ。因果関係を学習することで、人間の最高次の論理的思考や意図的な行動が実現されるのであり、いずれも心の理論を前提としている。
→因果関係というのは、われわれがいまだ異論の多い概念だと思うし、心の理論もまだまだ深淵にあると思う
・…コグニティブ・コンピューティング(認知コンピューティング)の時代が始まろうとしている。
・長期的な記憶が必要な場合は、最適な学習の間隔がより長くなることがわかった。
→ということは、短期詰込みはあかんということやな
・その場での理解と長期的な理解のどちらにおいても、聞いて学習することと呼んで学習することについて統計的な差のないこと、また各自の好みの学習方法と実際の指導方法が同じでも違っても関係がないということを示した。生徒の好みの学習スタイルに合わせてもメリットがないということは、個人の学習スタイルに合わせた学習教材やテスト教材を宣伝する巨大産業が、教育にとって特に価値のないことを意味している。
→どう理解したらええのんか?
・教育とは根本的に、労働力に強く依存する活動である。最も効果的で最も優れている教育方法とは、熟練した大人の教師と生徒が1対1で相互作用をすることなのだ。
→これは会社の人材育成にも大きなヒントと後押しになる
・「学び方を学ぶ」は、脳がどのように学習するのかという私たちの知識に基づいて、よりよい学習者になるために必要なツールを与える講義である
→さっそくMOOCに登録して、講義を聴き始めたところだ
・あなたが眠っていて何も気づかない間にも、脳は問題に取り組むことができるのだ、だがこれが起きるのは、眠る前に問題を解こうと一心不乱に考えたときだけだ。そうすれば、翌朝、新しいアイデアが浮かんで問題解決のヒントが得やすくなる。肝心なのは、休暇前や就寝前に徹底的に集中することによって、脳の準備をしておくということだ。
→ということだそうです
・シューティングゲームをプレイすることで、年長者の脳が若い人の脳のように素早く反応できるようになると結論づけられた。→だから我々老人もゲームをしましょう
・膨大な医療データや個人情報が収集され、西欧の民主主義諸国よりもプライバシーに関する意識がはるかに低い中国は、個人情報を他からアクセスできないよう囲っている西欧諸国を尻目に、この分野で躍進するポテンシャルがある。…最も多くのデータを持つものが勝者である。つまり中国が有利な状況なのだ。
→残念なことである。どうすればいいのか?対話の中から、時間をかけて取り組んでいかなければならない課題である
・これまでテクノロジーを前進させてきたのは物理法則である。20世紀には、物理的な世界を理解しようとして、微分方程式と連続変数(時間と区間にわたって連続的に変化する)の数学を使っていた。だが、今日のテクノロジーを前進させているのはアルゴリズムだ。21世紀の私たちは、離散数学(確率とか行列とか)とアルゴリズムを使って、計算機科学や生物学における複雑性を理解しようとしているのだ。
→この前のブログで書いた「科学と正気」でコージプスキーが言ったように、やはり数学思考が科学思考の中心に位置している
・1980年代、複雑さに対する新たなアプローチが盛んに研究された。その目的は生き物のなかで発見されたようなシステム、つまり物理や化学のシステムよりも複雑なシステムを理解するための新しい方法を開発することだった。ロケットがどう動くかというのは簡単で、アイザック・ニュートンの運動の法則に従っている。だが、木がどう成長するかを簡単に説明する方法はなかったのだ。
・人間の目の網膜には1臆個もの光受容細胞が並んでいるが、光子を集めてメモリーに送るだけのデジタルカメラと違って、網膜には視覚入力を効率のよい神経コードに変換する数層の神経処理がある。…神経節細胞は、この信号を、オンかオフかのスパイク出力を使って、百万もの軸索を通じて脳に伝搬する。
・インターネットにアクセスできる人なら誰でも、事実上「全知」となっている。
→グーグルの創業者、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、その志の高さからも偉大であると思う
・情報の爆発的増加により、生物学は定量的な科学へと変貌した。…生物学は今や情報科学となった。
・50年後には、会話やジェスチャーや、表情によって、人間同士で会話するのとほとんど同じようにやりとりができる機械ができているだろう。意識を完全に理解するよりも、意識をつくり出す方が簡単かもしれない。
→私にはその世界を体感することはできないが、子供や孫たちが体感してくれるだろう。うらやましいことである
・強化学習と組み合わせることで、目標を達成するためにいくつもの選択を重ねなければならない複雑な問題が解決できるようになる。これが問題解決の本質であり、ひいては知能の基本なのだ。
→はやり体験学習やなあ
・言葉は使い方によっては、人を誤った方向に導き、コントロールしうるものである。もっともらしい言葉によって、無知に基づく主張がなされたために、不幸な結果がもたらされ、その影響は科学をはるかに超える範囲にまで及んだこともある。歴史には扇動家があふれている。だが、ひとたびその想像力の貧困が暴露されたならば、相手にされなくなるのだ。
→大衆はもっと賢くならなければならない
・人間の脳は、ただじっとして抽象的な思考を生み出しているわけではない。脳は身体のあらゆる部位と密接につながっており、その各部位は、感覚受容器と運動効果器を通して外界と密接につながっている。つまり、生物学的な知能は、身体に組み込まれているのだ。さらに重要なことは、脳は、外界との関わりを通じて、長い成熟のプロセスを経て発達してきたということだ。学習とは、発達と同時に起こるプロセスのことであり、大人になってからもずっと続く。したがって、一般的に通用する知能を発達させるうえで、最も中心的な役割を果たすのが、学習である。
→非常に興味深く、そのとおりだと感じた
・進化という視点がなければ、生物学は何の意味もなさない。
・人間は、他のどんな種よりも、幅広い物事について、より早く学び、より多くを記憶し、より多くの世代を超えて知識を蓄積することができる。人間は、一生涯のうちに学べる内容を増やすために、「教育」というテクノロジーをつくりあげた、…現代文明を可能にしたのは、話し言葉ではなく、読み・書き・学習なのだ。
・ディープラーニングはコスト関数の最適化に頼っている。進化時おけるコストの逆数を「適応度」という。
→なるほど!
・私たちはまだ、最高次の知能の秘密を明かしてくれるような、核となる概念を探している。いくつか重要な原則はみつかったものの、DNAによって生命の本質が説明されるようなエレガントさで、脳が働く仕組みを説明できるような、概念的枠組みはまだない。学習アルゴリズムは統一的な概念をみつけるのに良い場所だ。
・キャリアは振り返ってみて生まれるものだ。(ソロモン・ゴロム)
→そうかもしれない
結局、この本、ディープラーニングという人間の認知能力のしくみを研究し、それをコンピューティングに応用して、その世界をイノベーティブに発展させていこうとしてきた世界の英才たちの活動と成果を生き々々と描き、それをわれわれに伝えつことに見事に成功しているといえる。
それにしても、まだまだわからないことだらけなのだろうが、ここまで技術が進歩して、人間の脳の構造がしだいに、明らかになってきているのは、生物学分野のナノレベルの分析と解明、ムーアの法則で表現される半導体技術の継続的劇的進化があってのことである。まさにコージプスキーが自然を解明していくためには、数学の言葉によるのが適切だといったとおりである。すばらしい人類と科学の成果である。
世の中には、かくもすばらしい頭脳を持ち、それを活かしきっている人たちがいるのは、うれしいし、また凡人にはうらやましい限りである。こうした人たちの交流とディスカッションがどれほど刺激的な、文章からひしひしと伝わってくる。
世界の数学的知性に満ち溢れた人たちの多くは、今や情報分野に吸い寄せられているのではないだろうか?そこには彼らの知的好奇心をワクワクさせるようなテーマとビジネスでの途方もないリッチネスの可能性が待っているのであるから。
いずれにしても、わくわくしながら読めた。だいぶ関連した本をアマゾンで検索したが、どれも数学的専門性と翻訳されていない本が多く、ハードルが高そうであった。
そして、私が自分の組織でもそうしているし、お客様にも強く勧めているのだが、社員の教育こそが、長期的に見て最高に効果的な投資であり、それは自由闊達な議論と実験のなかから生まれて来、そのためには、「学びつづける組織」を創らななければならないし、弊社の社長の才木が力説しているように、『15%ルール』つまり、所定時間の15%は教育訓練につぎ込まなければならない(自己啓発に生涯学習だとドラッカーは述べている)という組織の考え方を徹底させることが重要だとあらためて感じさせられた。
会計事務所と経営コンサルティングの融合
ワンストップでの問題解決
御堂筋税理士法人&組織デザイン研究所
小笠原 でした。