ドラッカー経営を中小企業で実践する 第43回小笠原の実践ドラッカー流経営 - POST経営:S 風土創り
2026.06.15
税務
要約
1 組織とは人の集まりである、従って組織の力は人で決まり、その根源はリーダーのリーダーシップ力により、それらは、『人的貸借対照表』で端的に表わされる
2 目指すべき組織は、ドラッカーのいう『成果中心の精神』による。その核心にある精神は『学び続ける組織』である
3 そして、その根源は、リーダーの道徳性にある
1 『人的貸借対照表』
「組織は人の集まりである」、当たり前すぎる言葉ではありませんか? もちろん、ビジネスとはヒト、もの、カネという経営資源を効果的に使って、社会に役立つ製品・サービスを提供し、富を高め社会に貢献し社員が幸せになるためのものでしょう。
ものとカネは物質です。物質は勝手には働きません。それはヒトが有効に使うことで価値を生み出します。したがって、富を生み出す力はヒトにあります。
哲学の世界では2つの世界観があります。一つは、世界は物質から成り立っているとする『唯物(ゆいぶつ)論』です。もう一つは、世界は精神から成り立っているとする『唯心論』です。
人間は物質から進化して意識を持つようになり、それは脳みその中の神経物質による情報のやりとりによるというのは唯物論です。いや、そうではなく人間の意識が世界の存在を認識しているのだとするのは唯心論です。どちらが正しいか永遠の謎です。
ところで、皆さんにとってビジネスの目的は何ですか?「そりゃ、お金を儲けることだ」となれば、それは唯物論的なものの見方です。「いや、みんなが幸せになることだ」となれば、それは唯心論だと言えます。しかし、人間にとってお金はあくまでも手段であり、目的は幸福ではないでしょうか。
会計とは、ビジネスをお金のやりとりで表現したものです。お金のあり方は貸借対照表で表わされます。そこにはお金や債権や在庫や固定資産、借入金といった物質の情報だけが載せられています。
しかし、成果を挙げるのはヒトの力だとすれば、貸借対照表は、人の力をこそ表現すべきではないでしょうか?人の力を表現した貸借対照表を『人的貸借対照表』といいます。次の図がそれです。
【人的貸借対照表】

ここでは、ものを活かして成果を挙げるのは、社員たちの力であり、社員の力を結集させるのは最終的には経営者のリーダーシップであることを示しています。私はこれこそが自らが見るべき真の貸借対照表だと思います。
2 『成果中心の精神』
ドラッカーは著書『マネジメント』の中で、めざすべき組織は『成果中心に精神』によらなければならないと述べています。そのとおりだと私は思います。それは要約すると次のようになります。
(1) 「組織の目的は、凡人をして非凡をなさしめることにある」 それは、ビジネスチャンスに人の強みを活かしていくことによる
(2) それは、インプットを超えるアウトプットを生み出すことであり、精神の世界でしか起こりえない(物質は1+1=2にしかなりえない)
(3) そのためには基準を高くもち、チャレンジャブルな風土を創ることである。それは、自由な発想と意見出しと討論、
実験精神(仮説と検証と試行錯誤)が許容される文化である
(4) その精神に従い、人事にかかわる決定がなされないければならず、そこには真摯さがなければならない。
(5) それは、トップの姿勢により創られる
どのようにすれば、こうした組織ができるのでしょうか? それには、私のいう『学び続ける組織』をよく理解し、そのようなコミュニケーションの風土を注意深く創って行くことです。
その風土は、心理的安全性、つまり自由にメンバーが意見を言える場の雰囲気を築くことにより実現します。それはトップの片時も気を許さない発言と行動の慎重さによってようやくできあがるのです。私もまったく未熟者で皆さんに説諭する資格がないのですが、それはお金より信義を重んじる判断基準、言行の一致によりもたらされるものでしょう。
3 組織の風土・精神の根源はリーダーの価値観による
上記のような因果関係から、トップ・リーダーに求められる素質は明らかです。それをドラッカーは『真摯さ』と呼びます。真摯さとは、他人の強みに目が行く、誰がでなく何が正しいか関心が持てる、頭の良さよりも真摯さを重視できる、自分よりできる部下を愛でる、自らに高い基準を設定することによるとしています。
「リーダーシップとは、人のビジョンを高め、成果の水準を高め、通常の限界を超えて人格を高めることである。そのようなリーダーシップの基盤として、行動と責任についての厳格な原則、成果についての高度の基準、個としての人と仕事に対する敬意を、日常の実践によって確認していくという組織の精神に勝るものはない。」とドラッカーは教えてくれるのです。
厳しいですね。しかし経営者、リーダーの皆さん、すでによくご存じのことだと思いますが、こうした姿勢以外にあなたの役割をまっとうする途はないのです。結局、リーダーは自らの価値観を絶えず見つめ続け、撓め続けなければならないのです。詩経に曰く『自彊(じきょう)止まず』です。修養が必要なゆえんです。人は人の真摯さをたちまちに見抜きます。日々自問してそれができないとき、人は地位を去るべきでしょう。
以上