御堂筋税理士法人創業者ブログ

 わたしの手元に『映画100年史』という手垢のついた、古びた一冊の本がある。わたしが高校生の時に買ったもので、映画の誕生から現代(当時)までの映画の歴史と主な作品をわかりやすく解説、紹介しているものだ。

 わたしは、当時、新たに作品を見るごとに、その本を開き、作品名を〇で囲んだものだった。それでも紹介されている作品の半分にも満たない。

 そんな中で、未知で謎めいていた映画作家が、デイヴィッド・ワーク・グリフィスという人である。なにしろ活躍していた時代がサイレント映画の1910年代であるから、1960年代後半の当時、その作品を見る機会などなかった。

 デイヴィッド・ワーク・グリフィスは、『映画の父』と呼ばれている。それは、さまざまな映像での表現技法を生み出し、まだ映画が短編中心の幼稚な表現の時代に、今見ても圧倒される、それこそ、当時では空前絶後の作品を生み出したからである。

 そのデイヴィッド・ワーク・グリフィスの作品のいくつかを、ふとしたきっかけからYOUTUBEで見ることができた。いずれも著作権保護の期限が来たものである。なんともすばらしい世の中になったものだ。『国民の創世』(1915年)、『イントレランス』(1916年)、『散りゆく花』(1919年)の3本である。

 ウィキペディアによれば、デイヴィッド・ワーク・グリフィスは、アメリカの南部の生まれで、父は南北戦争の南軍の英雄だった。父が早逝し、暮らしは没落したが、高い教養を身につけていて、やがて、脚本家、俳優、監督として映画界での出世の階段を駆け上がっていった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/D%E3%83%BBW%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%B9

 南北戦争とその後日潭を、南部、白人の立場から弁明した(本人はそうは言っていない)問題作『国民の創世』(The Birth of Nation)を1915年に製作、リリースし、北部では上映禁止となりながら、大々ヒットさせた。

□映画|国民の創生 それは最高か最悪か | パスワードは一万年愛す

 

 それは、3時間を超える長尺で、ものすごくダイナミックな映像作品であるが、後半は白人優越主義のクー・クラックス・クラン(KKK)を擁護したもので、とても共感できるものではない。

 それに対する思想的弁明として製作されたのが、『イントレランス』(Intolerance)である。これは評論家、荻昌弘さんの言葉である。イントレランスとは不寛容という意味である。

 この作品は、一言で言えば“偉大”、観る者を圧倒し、唖然とさせられる。3時間に迫る長大な作品であるが、観た者をただちに作品の世界に惹き込み、一気に観終わらさせる。

 イントレランスは、現代(あくまで当時の)アメリカの、受難と苦難に遭遇した若きカップルの話をキーに、ペルシャによって滅ぼされていく古代バビロンの物語、パリサイ派によって磔刑に処せられてしまうイエスの物語、中世フランスの旧教徒によって虐殺されたユグノー派の人々の悲劇、聖バーソロミューの大虐殺の3つの歴史上の悲劇を、同時並行させて描いていく。

 その大スペクタクル、特にバビロニアとペルシャとの戦争を描いたバビロンの巨大なセット、すさまじい戦闘シーンの演出、モンタージュ、移動撮影、フラッシュ・バック、クローズ・アップ、フェイド・インやアウトなど、すばらしい撮影効果と映像美で、唖然とさせられる。

イントレランス(Intolerance):D・W・グリフィス - 続 壺 齋 閑 話

 

 人類の不寛容の歴史をこれでもかと見せつけ、それでも最後の最後に現代アメリカの若きカップルがすくわれ、我々はなんとか人間と世界への希望をつなぎとめることができる。

 まさに、思想的にも映像美としてもほぼ完ぺきな芸術作品である。デイヴィッド・ワーク・グリフィスはとんでもない完璧主義者である。バビロン陥落の戦闘のシーンでの攻城機など古代の武器の再現を見てもそれはわかる。

 多くの映画関係者が、それこそ百年を優に超えるに至った映画の歴史を通じて、最高の作品の一つにあげるだけはある。映像は粗いが、皆さんにもぜひお薦めするしだいである。

 

 この作品は、欧州やソ連では大変な評価を得た。しかし、本国アメリカでは、難解であるとの理由で、興行的には大失敗をした。そのために彼にとっては製作のチャンスが遠のいていく。荻昌弘さんに言われれば、佳品『散りゆく花』などと、名花リリアン・ギッシュを生んで、銀幕の表舞台から去っていった、とのことだ。

 『散りゆく花』(Broken Blossoms)は、野獣のようなボクサーの父親に虐待されて死に至らしめられた少女と中国人の青年との物語である。陰惨な境遇の中でのつかの間の安らぎが冷酷かつ暖かな眼で描かれる小品である。

散り行く花』(1919)完全主義者として映画史に君臨するグリフィスのメロドラマの傑作。: 良い映画を褒める会。

 

 余談となるが、それにしても改めて感じるのが、サイレント映画の演技の表現方法である。それは、今から見ればとにかく芝居がかっていて大げさである。音のない世界での表現だからとかくそうなるのであろうか。おもしろいものである。

 さらにデイヴィッド・ワーク・グリフィスの演出は、観る者からしてほんとうに嫌な人物は、視覚的に徹底して嫌な感じで描かれ、好感の持てる人物は、そのように描かれる。そのためにとても感情移入しやすいのである。

 さて、デイヴィッド・ワーク・グリフィスは、その後、チャールズ・チャップリン、ダグラス・フェアバンクス、リリアン・ギッシュとともに、今も存続する、ユナイテッド・アーティスツ社を創立したが、しだいに世間からは忘れられてゆき、1948年にその生涯を閉じた。

 しかし、映画史に燦然と輝く巨星のひとつではないか。ちょっとマニアックなお話になったが、あまりにも感動してしまって皆さんのお時間をいただいた次第である。これからも気の向いたときに古い巨匠の作品、名作を鑑賞したいものだと思っている。まずはジャン・ルノワールの『大いなる幻影』かなあ?

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小笠原 でした。

 

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