御堂筋税理士法人創業者ブログ

 最近、セミナーをしたりお客様と接したりしていて、痛感していることは、多くの中小・中堅企業において、組織とマネジメントのあり方が整っていないということである。

 その典型的な症状として、経理の業務品質の課題がある。今日はこのところを考えてみたい。

 そもそも、企業はすべからく創業者が創業したものである。昭和の時代の日本では、ご主人が商売を始め、奥さんがその事務を執るという形が典型的であったように思う。やがて努力が報われ、企業が立派に成長した後も、その形が続き、したがって、奥さんが専務などの肩書で経理の責任者になっているケースが目立つ。

 それはそれでいいのだろうが、会社が成長したときに、そのようなかたちでは不十分になる可能性がある。それはちょうど、大きくなる身体が、かたい殻によって脱皮できないのに似ているとドラッカーさんが言っておられる。

 まあ、奥さんが帳面とお金を管理していたら、ご主人にとっては、それは安心であろう。だが、残念ながら奥さんが経理などについて専門的な知識を持つにいたるケースは少ない。にもかかわらず、奥さんだから権限と権威はある。ここに問題が生ずる。経理も人事も会社の機関である。その機関が、会社の規模に見合っていないのである。だから機能不全を起こすのである。

 人はすべからく真面目であると思うから、ご本人に悪気はない。しかし、それが無害な時もあるし、弊害を及ぼすときもある。そのお人柄によって、自分の知識が乏しいと自覚され、それゆえつつましくされる方もいらっしゃれば、あまり自省的でなく、暢気にそれでよしとしてふるまわれる方もいらっしゃる。

 例えば、会社が大きくなっても、実印と銀行印は奥さんが持っているから、社員はハンコをもらうためには奥さんのところに行かなければならないことになる。また、何か疑問を感じても、相手が奥さんだと意見を言えなくなる。そのような現象は、小生の経験ではよく見られるところである。

 奥さんがわが手に負えないとして自ら退かれる方もいらっしゃるがすばらしい慧眼である。だが、自らそうしない限り、他人がそれをサジェストすることはむずかしい。やはり仕事は生きがいであるし、まして夫と立ち上げてきた会社であれば、ご自分と一体化して可愛いかもしれないからだ。 

 そもそも経理業務の要諦は、会社の業績を的確に経営者・幹部・社員にフィードバックし、会社の財産をしっかり守ることにある。ある程度の経営の規模になれば、経理も品質が問われる。ここに専門的な人材が求められるゆえんがある。

 経理業務の中心に、簿記による記帳という業務がある。これにより企業は金銭的に経営の成果を計算する。この業務は複式簿記というツールを使って行なう。そのために簿記学校があり認定試験がある。小生も学生の時、簿記を練習した。

 こうして会計技術を身につけると、簿記が仕事の目的と化す。試算表を作ることが目的になるのである。これを助長するのが会計事務所である。会計事務所が自分で帳面をつけるのが下手な人の代わりに記帳代行をしてあげることから始まって、会社の経理にその正確な処理を指導する。

 それはそれでいいのだが、問題は何のために会計処理をするのかという目的をきちんと教えないことにある。帳簿を作成する目的は、前述したように、経営者や幹部、社員に、会社の業績を報告することにある。そのためには、経営者の目線に立って、どのような内容で報告をすればよいのかという、マーケティング意識が必要である。

 経営成績(損益成績)の報告の要点はただ一つである。それはわが社が生み出して付加価値(限界利益という)とそのために使った経費(固定費)とを比べて、いくら儲かったのかを示すことである。そのために月ごとに正確な限界利益と妥当な固定費を示さなければならない。

 ところが、これが至難のわざなのである。なぜならば、正確な限界利益を計算するためには、正しい売上と正しい仕入と正しい棚卸をしなければならないからである。また妥当な固定費を計算するためには、どのように経費を月々に平準化するかを徹底的に検討しなければならないからである。

 さらに、商売のリードタイムと取引のタイムスパンの長い会社では、月次決算の数字自体が陳腐化していて、経営の検討材料としては意義が浅い場合もある。などなど、損益計算一つをとっても、会社の実態を示すためには相当の検討が必要である。出た利益は、売上高利益率、総資産利益率、損益分岐点比率などいくつもの切り口で、その効果性を多面的に捉えなければならない。

 これらの故に、そこそこの経営規模になれば、見識と向上心のある経理担当者がいるし、まさに会計事務所はそうした点をアドバイスしていかなければならない。経営者にはそこのところをよく認識して、しっかりとした経理のしくみを作っていっていただきたいところである。

 

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