帝王学で学ぶべき12の心がまえ(暫定的なお話)
2023.05.07
経営者へのメッセージ
前回のブログで帝王学について思うところを簡単に記しました。その後6月はじめに東京中小企業投資育成様でさせていただく『中小企業の後継者・経営人材の育て方』という講演会の資料を作っている中で、少し帝王学について触れる必要があったので、具体的な心構えについて考えてみました。以下はその内容です。しかし、これはまだまだ思考途中のもので、あくまで生乾きのものであることをお断りしておきます。
1 志を持つ
森信三先生もおっしゃっているとおり、なんといっても人生は志が最初でしょう。目に見えるものは目に見えないものによって支配されているわけです。国家でなくても企業経営においても、理念と目標が成し遂げるものを第一義的に決定しているのです。
2 公を私より優先し、使命感と責任をもつ
どうも欧米では企業は株主のものであるという意識が強いようですが、わたしは反対です。法律的帰属はたとえそうであっても、実態は企業は社会の公器です。社会の中のどのように全体に貢献し、その上で企業が企業として永続していけるか、それが経営者の判断機軸だと思います。
3 自利より利他を優先し、メンバーが自己実現できる場を創りあげる
人間存在の究極的存在意義は、生物的には種のバトンを受け、次にバトンタッチしていくということです。それを倫理的に言うと、西晉一郎先生の言われるように、ただ恩を感じ恩を返すのみということになります。わたし的にそれを自己の人生にあてはめれば、他者に役立ちそのために自らを高めるのみだということになります。自分の周囲の成功や喜び、幸福が自分の喜びであり勲章でしょう。
4 人の長所を使い、人を信頼し認め、失敗を許容し、人の成功を心から喜ぶ
ラグビーなど団体競技をみてもわかるように、各人の長所を最大限に生かし組織化することが勝利への道すじです。生来他者に批判的なわたしがそのことに気づかされたのはドラッカーの『経営者の条件』でした。そうして孟子も言うように人を信頼し、また人は一定の確率で失敗するわけですから心の中に引当金を積んで見守り、辛抱強く待つことだと思います。
5 部下をよく観察し、部下の話をよく聴き、部下の諫言に常に耳を傾ける
何事につけ思考の原点はよく対象物を観察することです。これ科学の基礎だと思います。ですからよく相手を観察し、相手の考えを知ることです。その中で自分の考えや意思決定、行動に対しての部下の意見、直言、諫言には、素直に耳を傾け、そのフィードバックに対してみずから熟考することは致命的なリーダーの持つべき態度だと思います。
6 どのメンバーとも等距離を保ち、冷静に人間の心理を見極め、現実的に処断していく
よく経営者は孤独だと言います。確かにそうですしそうでなければなりません。そして人間というもののこころのあり様、つまり人間心理をよく理解して、カエサルがいみじくも言ったように人にはそれぞれのねがいがありそれを尊重してあげたいとして彼らのねがいを見極めバランスを取りながら、集団全体を統合的に成果に導き発展させる必要があります。そこにおいてはある部分、かのマキャヴェリが記しているような冷静さ、冷徹さ、怜悧さ、現実的判断が必要でしょう。
7 手本を示し、部下を育てる
リーダーシップとは手本を示すことである。これはわたしが安岡正篤先生など様々な本から学んだリーダーシップの一つの簡潔な定義です。古来、人は先輩の所作、考えをまねて学んでいくわけですから、このことは当然のことです。そもそも自分だけは別である、例外であるなどと考えるのはとんでもないうつけ者でその時点でリーダーたる資格はないでしょう。アレクサンドロスは全身数十ヶ所の傷があったといいます。それは彼は戦いではつねに先陣を切って敵に向かって行ったからです。
これはお金についても言えます。礼記に曰く「利を専らにすれば、民、必ず貪る」です。
8 受生の恩を辱く思い、感恩を謝恩に、そして報恩にエネルギー転化していく
わたしがもっている経営の価値観は、森信三先生の教えに基づいていますが、そこでは『所照』という考え方が反映されています。これは華厳の教えだそうですが、考えてみれば当然のことで、この宇宙の中、太陽の光の恵みを受け、地球の空気と水、植物の恵みを受けてわたしは存在が許されているわけです。それを基に考えますと、第一の価値観の思想は、感恩→謝恩→報恩という当然の道すじをたどることになります。
9 自らの態度が、自らの環境を決定しているという考え方が身を身につける
第二の価値観の思想は、ブッダが発句経(ダンマパダ)で諭していらっしゃる、「あなたの周りのあなたに対する姿勢は、あなたの周りに対する態度の反映に過ぎない」という『鏡の法則』です。この考え方は西洋では『運命の法則』とも言われていますが、人生の永遠の原理・真理です。これをわかる人とわからない人とで幸福度が決まります。わからない人は決してリーダーとはなれないのです。
10 日々自らを省みて、自らを高めていく
そのために人は日々自らの身口意をふり返る必要があります。身口意とはわたしの知る限り『妙法蓮華経』の教えであり、それは『十善戒』として慈雲尊者によって唱道されているところです。西洋哲学では『Reflection』と言われ、わたしは『ふり返り』と訳しています。自らの価値観を高める方法は、このふり返りと日々の祈りと実践しかないのではないでしょうか。わたしは道元禅師がおっしゃるように人生とは『修証一如』だと思います。この簡単な定義、つまり日々の生き方とは、学びと実践が一つになったものだとの教えはとてもパワフルでしっくり来るのです。祈りの大切さはウィリアム・ジェームスの『宗教的経験の諸相』をぜひ読んでください。
11 感情を制御し、無用なプライドを持たない
わたし自身に照らして(も)、己の指導者としてのパフォーマンスを制約している最大の欠陥は、怒りの制御であり、無用で過剰な自尊心です。これをコントロールしたり取り去ったりすることが修養の大きな目標となります。なぜなら、権力者が我を忘れて怒る、色を変える、怒鳴り散らすことは、周囲を一瞬にして凍らせるからです。さまで独裁国家の誕生となり、その時点で衆知を英知を集めるという健全な組織発展の芽を摘み取ってしまうからです。
12 いざという時には自らの責任で意思決定をする
もちろん日常平穏時においてはリーダーはメンバーたちの衆知による決定を尊重し身をゆだねればよいわけですし、その折々の課題に対してもっとも見識のある人びとの意見を尊重すればよいわけです。ですが一朝事ある場合には危急時のリーダーシップが求められます。たとえば、繰り言になりますが、あの陸軍参謀部の暴挙暴走の折に昭和天皇が英慮と英断を持ち命を張って思想的跳ね返り共を諫めてくださっていたならと詠嘆するものです。
13 地位に連綿とせず、後継者を育て引き継ぐ。引き継げば少壮の世代のじゃまをせぬように、消え去る。
人は身心と見識が充実するピークをすぎれば否応なしに衰えていきます。いつまでもわたしがなどと考えることは、とんでもない思い違いです。そのような明白なことが見えなくなるような心の曇りは、人生最後のとりでである晩節を汚します。老兵は消え去るのみ。活躍すべき次の世代のじゃまをしてはなりません。
以上、思いつくままに帝王学における持つべき心がまえとその解説を書き連ねてみました。その中でわたしの考え方に大きな影響をもたらしてくれた先人の賢哲たちの教えがあります。参考までにそれらの書籍をご紹介しておきましょう。
・『マネジメント』『現代の経営』『創造する経営者』『経営者の条件』(P・ドラッカー)
・『創造的経験』(メアリー・パーカー・フォレット)
・『マッキンゼーをつくった男 マービンバウワー』(エリザベス・イーダスハイム)
・『経営者の役割』(チェスター・I・バーナード)
・『はじめの一歩を踏み出そう』(マイケル・E・ガーバー)
・『グレートゲーム・オブ・ビジネス』(ジャック・スタック)
・『ハイアウトプットマネジメント』(アンドリュー・S・グローブ)
・『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(マーシャル・ゴールドスミス)
・『Dialogue』(ウィリアム・アイサックス)
・『ファシリテーター完全教本』(ロジャー・シュワルツ)
・『木に学べ』(西岡常一)
・『アレクサンドロス大王東征記』(アッリアノス)
・『ガリア戦記』(カエサル)または『ローマ人の物語』(塩野七生)
・『キュロスの教育』(クセノポン)
・『君主論』『政略論』(マキャベリ)
・『ソクラテスの弁明』(プラトン)あるいは『ソークラテースの思い出』(クセノポン)
・『失敗の科学』『多様性の科学』(マシュー・サイト)
・『怒りについて』(セネカ)
・『修身教授録』(森信三)
・『論語』(孔子)
・『孝経』
・『大学』
・『翁問答』(中江藤樹)
・『報徳記』『夜話』(二宮尊徳)
・『読史余論』(新井白石)
・『日本外史』(頼山陽)
・『坂の上の雲』『竜馬がゆく』『世に棲む日々』(司馬遼太郎)
以上