御堂筋税理士法人創業者ブログ

ドラッカーの

現代の経営を読んでいたら、

リーダーシップを学ぶなら

これ一冊でよいと紹介されていたのが

クセノポンの

「キュロパエディア(キュロスの教育)」

さっそく買うた。読んでみた。

この本、本邦初訳

京都大学学術出版会から

出ていてありがたい。

内容は、

古代ペルシャの名君といわれた

大キュロスの話だ。

子どものころ

お祖父さんの国メディアに

滞在したころのエピソード

~栴檀は双葉より芳し~

からはじまって、

メディアから乞われて

敵国アッシリアとの戦いの始終

近隣諸国を、用意周到、

人間心理を見すえ、信義を大切に

味方につけてのストーリー

そして、

キュロスの口を借りた

クセノポンの理想的統治論

キュロスの大往生と

その後のペルシャ

はじめは

なんと読みにくいと

思いながら

ページが進まなかった。

これは学者の訳が悪いのか?

ギリシャ語の理屈っぽいのが

反映されているのか?

(おそらくは両方ではないかと思うのだが)

しかし、途中から

圧倒的な教訓、

感動的なエピソード

の連続で

ページがマーカーで染まった。

時間を忘れて文字を追った。

ドラッカーがそこまで

推奨するのはなんで?

と最初は思ったが

やはり、すばらしい!

さすが、ドラッカーだ!

クセノポン(クセノフォン)といえば

プラトンの兄弟弟子

おなじような題名で競作したが

哲学では歯が立たなかった。

彼が転進したのは

従軍記、小説の分野。

このキュロパエディアは

西洋小説の黎明の傑作だとか。

そして

キュロスの口と行動を借りて

クセノポンが示す

理想のリーダーシップ、統治論が

展開される。

だが、そこに示されるのは

たぐいまれな個人の姿だ。

ドラッカーが現代の経営で

訴えるリーダーシップのあり方の

かなりの部分が本書で示される。

キュロスは子どものころから

食事を節制し、

おいしいものは友達に分けてやった。

そして狩りを

戦争の訓練とした。

さらに、

眠け、食欲、のどの渇きを

克服していった。

それらはすべて

戦争戦略を実行するのに

重要な肉体条件や胆力をつくる。

そして人をよろこばし、話しを聴き

褒美を与え、地位を明確にした。

「わしらは、二つのことに

留意しなければならない。

それは、まず

わしらが、それら

(土地や、住民、家畜、産物)を

所有している者たちの

支配者になることであり、

次に、その所有者たち自身が

そこに留まるようにすることである。

住民のいる土地は

非常に価値のある財産だが、

人間のいない土地は

産物のない土地になるからだ。」と

これは「大学」の恒産の思想と同じだ。

つまり人を大切にすることは

経営の大原点ではないか。

それゆえ彼は祈る。

「至高のゼウスよ、

わたしに敬意を払ってくれる者たちより、

わたしが彼らに好意を示すほうが

まさっているようにしてください。」と

訓練が浸透した組織が

いかに成果を発揮するか

「教育を受けたペルシャ兵は

食べ物にも、飲み物にも

目を奪われたり、手を伸ばしたり…

する態度を示さなかった。…

食事をしていても、思慮があり

節度のある者と

見られなければならない。

食べ物や飲み物のために騒ぐのは

まったく豚や野獣のすることであると

彼らは信じている。」

(耳の痛いことである)

心服している腹心の部下がいう。

「キュロス殿下、

私たちは、これら

(酒杯、衣服、黄金)の物を

できるだけ多く所有しようと

骨を折っていますが、

殿下はご自身が

できるだけ優れた者に

なろうと心がけておられる…

人間は黄金がなくとも

高貴でありうる…」

キュロスの戦争前の

準備や指示は

用意周到であった。

(この辺が粗雑な頭の

僕とはちがうのだ、悲しすぎる)

「職人はそれぞれ

自分の技術に必要な

道具の名前を知っており、

医者も自分の使用する

すべての道具と薬の

名前を知っているのに、

司令官がある場所を占拠し、

そこを守備し、

部下を勇気づけ、

敵に恐怖を抱かせようと

意図する場合に、

道具として

使用しなければならない

配下の指揮官たちの名前を

知らないほど愚かなら、

まったくおかしなことだ、

と考えていたらである。

彼は誰かをほめようと思う時

その者の名前を呼ぶのが

適切であると

みなしていた。

そのうえ、

指揮官に知られていると

信じる兵士たちは、

それだけ立派な行為をしている

ところを見られたいと強く願い、

恥ずべきことをするのを

避けようといっそう努力する、

という考えを抱いていた。」

そして、現地現場を確認する。

「彼自身は隊列の

一定の位置に留まっておらず、

あちこちと駆け回って

群を見守り、

兵士たちの必要とする物があれば、

それを供給した。」

いざ戦いとなると

「キュロスは時機が来たと思うと、

戦闘歌を歌い始め、

全軍がこれに唱和した。

この後、彼らは

軍神アレスへの鬨の声を一斉にあげ、

キュロスは前進した。」

彼は戦争に勝ったあとこういう。

「だが、今後わしらが

安逸を求めたり、

苦労するのを不幸と、

苦労のない生活を送るのを

幸福とみなす劣った人間たちの

好む奢侈を求めるなら、

瞬く間にわしらが

自分の目にはとるに足らぬ

人間に見えるうえに、

いち早くすべての財産を奪われる、

との認識をわしは持つのだ。」

「というのも、

勇敢な兵士たちになっただけで

勇敢であるための努力を

たえずしていなければ

勇敢であり続けることは

できないからだ。」

「だから、わしらは注意を怠り、

目前の快楽に

身を委ねてはならないのだ。

支配権を獲得するのは偉大な行為だが

獲得したものを保持し続けるのは

はるかに偉大な行為であるからだ。

支配権の獲得は

大胆さを示すだけの者によっても

達成されるのはよくあるが、

獲得したものを維持し続けるのは

もはや節度と自制と

十分な配慮なしには不可能なのだ。」

ここには『貞観政要』とおなじ

創業と守勢いずれが難きか?

という問題への回答が提起される。

世の後継経営者諸君

勇気をもて!ということだ。

「立派な成果を手に入れるために

前もってする苦労が多いほど

成果は多くに喜びを

もたらしてくれることを

理解すべきなのだ。」

「人間がとくに願望しているものを

神が援助してわしらに

入手させてくださり、

また、その獲得が

自分に最高の喜びをもたらすことが

明らかである人は、

空腹にしておいて

もっとも美味の食事をし、

のどを渇かしておいて

もっとも甘美な水を味わったり、

休息を必要にしておいて

もっとも快適な休息を

とったりすることで、

生活に困っている人より

まさろうとするのだ。」

(実にすばらしいことばではないか!)

「よい成果を

得られないことの苦しみは、

獲得したよい成果を奪われる

苦しみほどに辛くないからだ。」

そして教育と行動見本である。

「お前たちもそばにいて

わしが常に自分の義務に

配慮しているかどうかを

注目して学ばなければならないこと、

わしがお前たちを観察し

立派で素晴らしい訓練を

する者たちを見ると

彼らに名誉を与えることなどを

いうだけである。」

「わしらから生まれる子供たちも

わしらがこの土地で教育しよう。

子供たちに自分自身を

できるだけ立派な手本として

示そうと願うから、

わしら自身がより優れる一方、

子供たちはたとえ望んでも

容易に悪くならず、

いかなる恥ずべきことも

目にしたり、耳にしたりせず

立派で勇敢な態度で

日を過ごすようになるからだ。」

彼は、平和になると

即座に統治システムを整備した。

人の配置、情報システムである。

「極めて重要で数多い

要務を達成すべき人物の存在が

必要であるのに、

そのような者たちがいないとなれば、

自分の支配も失敗する、

と彼(キュロス)は思った。

…彼は、

これらの人物を確保する役目を

自分が引き受けることにし、

自分も同じように優れた資質を

磨かなければならない、

と決意した。

自分が手本となるべき

人物でなければ

他の者たちを立派で優れた行為に

向かせることなどできない、

と思ったからである。」

そして重要なしごとをする時間を作った。

「このような考えを持った時

彼はこのうえもなく

重要な要務を

配慮できるようになるには

まず暇がなければならない、と考えた。」

「彼は、国家機構を中央集権化した。

その結果、

わずかの者と話しさえすれば、

行政のいかなることも

なおざりにされなくなった。

自分の仕事を

このように処理した彼は、

側近たちにも

この処理の仕方を教えた。」

「いっそう幸福になったこの時期に

神々をさらに畏敬する

自分をまず示した。」

そういうことである。

これら、決定的に足りないなあ。

「仲間がすべて神に畏敬の念を持てば、

相互にも、彼自身にも

無法な行為をする傾向は

さらに少なくなる。」

「恐怖を抱かぬ者にたいしても

謙虚である者たちに対しては、

人々は、謙虚でない者たちにたいしてより

謙虚であるという理由からである…」

そういうことだ!

「すなおに服従する者たちを

もっとも偉大な、苦労に満ちた

功績をあげる者たちより

尊重すると明示すれば、

とりわけ自分の側近たちは

服従することを変わることなく

こころに銘記する…」

「彼は自分自身が

節度を守ることを示して

すべての者にも

いっそう節度を守る

訓練をさせるようにした。

もっとも放埓なふるまいを

しうるキュロスが

節度を守っているのを目にすれば、

地位の低い者たちは

なおさら放埓な行為を

示さなくなるからである。」

「謙虚にふるまう者たちは

人の目につく

恥ずべき行為を避けるが、

節度を守る者たちは

人目につかない

恥ずべき行為も避ける点で

彼は、謙虚と節度を守ることを

区別した。」

「愛されていると

信じている相手によって

憎まれることはありえないと

確信していたから、

常に自分の心にある

親切心をできるだけよく示した。」

「したがって、財貨で好意を示す

ことがまだ十分にできなかった間は

見方の者たちへの拝領と労苦を

さらに、よい成果には一緒に喜ぶことを

災厄にはともに苦しむことを示して

味方の者たちからの

友誼を得ようと、努力した。

だが、財貨で好意を示せるようになると

彼は、同じ出費をするなら

人間相互にとって

飲食を分かち合うことより

よろこばしい好意はないと

認識したのである。」

「彼はもっとも多くの

収入を得ていることで

他の人より格段まさっていたが、

もっとも多く分け与えることで

なおいっそう人々より

抜きんでていたのである。」

「わしは、神々のご意向に従い、

常により多くの財貨を求める。

だが、それらを手に入れた場合、

わしにとって十分以上に

財貨があるのがわかると、

わしはそれらの財貨で

友人たちの窮乏を補い、

人々を富ませ、恩恵を施して

彼らの好意と友誼を獲得し、

この結果わしには

安全と名声が報われるのだ。」

「友人のお前たちに

恩恵を与える能力がわしにあれば、

わしは、たまたま

身につけているのが

どんな衣服だろうが、

立派に見えるのだ。」

すごい言葉ではないか!

彼の処遇の考え方である。

「彼が各人がどのように評価しているかが

明確にされるのを、

キュロスは、よいことであると、

信じていた。

もっとも優れているものでも

公に賞賛されることも

賞を受けることもないとの考えを

人々がもつようになると

人々は競わなくなるのは

明白だからだ。」

(席順の昇降格もはっきりさせていた)

次に整理整頓だ。

「キュロスは、家の中で

家具調度がよく整えられているのを

よい生活習慣、とみなしていた。

というのも、

よく整頓されていると、

何かが必要になる場合、

どこへ行って手に入れるとよいのか

分かっているからである。

そして、戦いを有利に導く機会は

実に早く過ぎ、

この機会に遅れる者たちの

損害が非常に大きいだけに、

軍隊の規律が

よく守られるのは

それだけ非常に重要だ、

と見ていた。」

これは大変重要な記述だ。

最後に、神々への感謝と

人生の最後のなすべきことだ。

「多くの立派な成果への感謝の供養を

わたしのなすべきことと

してはならないことを

お示しくださったことへの

感謝の贈りものをお受け取りください。

…わたしの成功が

人間の能力を超えると自慢することなど

けっしてなかったことを

あなた方のおかげと、

大いに感謝しています。

今もわたしはあなた方に

わたしの子供たち、妻、友人たちに

幸運を与えてくださるように、

またわたしには

あなた方が与えてくださった

生涯にふさわしい

人生の終末を与えてくださるように

お願いします。」

そして身ぎれいに身支度をし

縁の者たちを集めて

亡き後の指示や目配りをした。

「息子たちよ、

わしは魂が知性のない肉体から離れると

その魂は知性のないものになる、

とは信じない。

…精神は分離され、

純粋で汚れのないものになった時に、

もっとも知性的になるのは当然である、

と信じてきた。」

森先生の考え方にも

みられる高貴な人の存在価値である。

「神々の後には、

言うまでもなく、

たえず生まれ続ける

人間の種族すべてに敬意を示せ。…

すべての美しいもの

すべてのよいものを生み出し、

育てる大地と一体になることより

幸せなことはないのだ。

わしはとにかく

人間を愛していたし、

今もわしは人間に

善事をもたらすものを共有することが

喜びであると信じている。」

「では、愛するわが子たちよ

さようなら。

お前たちの母上にも

わしからの言葉として

さようならと伝えてくれ。

また、すべての友人よ、

ここにいる友人も、いない友人も

さようなら」

「彼はこのように述べると

すべての者に右手を差し伸べた後、

顔を覆った。

こうして、彼は世を去った。」

高貴で静謐でおごそかで

いつまでも余韻の残る

みごとな描写であった。

圧倒的な感動的筆力。

芳醇なビンテージワインを

いただいたような読後感。

こころがあたたかく満たされる。

そして、お前は今のままでいいのかと

激しい力でこころを突かれ迫られる。

クセノポンは

そのあと、その後のペルシャを描いている。

それは人心が衰えていったのちの風景だ。

「組織は

リーダーが偉大なときだけ

繁栄する」

ドラッカーも語るテーゼだ。

私もそう思う。

経営者の皆さん

偉大な人間にはなれないかもしれない

でも自己啓発はできる。

そしてドラッカーはいう

修得できると!

会計事務所の可能性を追求する

御堂筋税理士法人&

組織デザイン研究所

税理士 小笠原 でした。


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