御堂筋税理士法人創業者ブログ

 最近読んだ中でとても面白かった本が、”TO EXPLAIN THE WORLD – The Discovery of Modern Science -“(科学の発見)である。スティーヴン・ワインバーグという物理学者が書いた、主として古代からニュートンに至るまでの科学、それはほとんどが天文学と物理学の発達史である。少し分野は異なるが、ルイス・マンフォードの『機械の神話』や『技術と文明』などに類する面白さであった。

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 この本のおもしろいのは、本文の説明267ページで、主な科学者たちの事跡と学説を説明する一方で、その主要な学説の技術的な説明がさらに100ページもあるという点である。そのテクニカル・ノートはたぶんいたせりつくせりの説明で、理工系の学徒諸君なら目をらんらんと輝かせて、時間も忘れて読みふけるのだろうが、僕にはちんぷんかんぷんでまったく読めない。しかし痛快なのは、幾人もの思想家について著者が下している、世評に比べての肯定的あるいは否定的評価である。

 とくに、フランシス・ベーコンとデカルトに対する否定的評価である。おそらくこれがこの書をして刺激的と評価される原因なのではないだろうか。”The two figures who became best known for attempts to formulate a new method for science are Francis Bacon and René Descartes. They are, in my opinion, the two individuals whose importance in the science revolution is most overrated.” (科学の新しい方法の構築を試みた人物としては、フランシス・ベーコンとルネ・デカルトが最も有名だが、私としては、この二人は科学革命への貢献度について最も過大評価を受けている人物だと思う。)と書かれている。

 フランシス・ベーコンと言えば、主著『ノヴム・オルガヌム』で旧来の思考法の悪弊を『4つのイドラ』と表現し、実験を重視した科学的な思考法提唱した人物である。世評それなりに評価されているし、僕も好感を抱いている思想家である。ルネ・デカルトは言わずとしれた近世を切り開いた大哲学者であり、『方法序説』で、考えることにおいて確実性に立脚した演繹の重要性を説いた人物である。ワインバーグに言わせると、科学的思考とは、観察による仮説構築と実験によるその妥当性検証によるものであり、ベーコンもデカルトも誤っているという。正に一刀両断の感がある。

 自然哲学(科学)の祖は、イオニア(小アジア側のギリシア植民都市地域)のタレスに始まるとされる。万物の根源は水であるというのが彼の主張であったとされる。その後、プラトン、アリストテレス、プトレマイオスなどを経て、コペルニクス、ケプラー、ガリレオ、ニュートンへ研究は引き継がれる。

 古代、まず発達したのは幾何学(Geometry)だった。これは建築や土木の測量に必要だったから当然であっただろう。それに天文学(Astronomy)も発達した。1年という周期の特定は、生きる上での根源的な生業である農業にとって決定的に重要であり、時季、時間の特定のよりどころは、日月、星辰によるのだからこれも当然であっただろう。それとは別に、人間は切りもなく遊びが好きだから(ゆえにホモ・ルーデンス=遊ぶ人という)、数の持つ不思議な性質はたまらなく人を引き付けたろう。それで算術(Arithmetic)も発展した。幾何では、あのエウクリデスの『原論』が登場した。天文学では、プトレマイオスの『アルマゲスト』だ。

 いたしかたないが、天動説から星々の動きを説明するのだからどうしたって正解には至らない。僕は天文学や天体観測などまったく興味がないが、太陽を中心に惑星たちがその周りを周回し、さらに惑星の周りを衛星が周回している、そしてそれら以外の恒星はまた別の角度で見える。それだから、その説明には、四苦八苦したのである。

 コペルニクス以前に地動説を唱えたのは、古来、アリスタルコスであるが、いずれにしても、カントが使って有名になったように、考え方の大変換を『コペルニクス的転回』というくらい、コペルニクスが唱えた説は、驚愕天地のものだったということである。

 古代の学者たちは、肉眼だけを頼りに、現代の正確な計算に並ぶくらいのさまざまな測定数値を算出した。だが、ケプラー以後、ガリレオなどは、望遠鏡を活用し、思考を精緻化していった。とはいえ、日本人やインド人のような合理的な数の数え方を持たない西洋人たちが、複雑で大きな桁の数値計算をなし遂げるには、想像を絶する根気と注意深さが必要だっただろう。計算がほぼ人生といっても過言ではあるまい。

 ガリレオは、教会の異端裁判にかけられ、進退窮まって教会の命令を甘受したが、退廷時「それでも地球は廻る」と宣わったと伝えられる。そうして、いよいよ、ニュートンの登場である。木からリンゴが落ちるのと、惑星が太陽の周りを回るのを、おなじ万有引力(重力)という力の下に統一した理論を、微積分をも考案しながら、F=maという、美しい数式で表わした。ワインバーグは、ニュートンこそ、ダーウィン、アインシュタインとならぶ科学史上の巨人だという。そのとおりだろう。

 その後の科学の発達は周知のごとくである。その主たる物理学は、デモクリトスの原子論を敷衍した分子論、原子論で、化学と融合して行き、さらに、ワトソン・グリップの二重らせんなどとともに生物学とも連係をしていった。そしてそれらは日々進化し発展を遂げつつある。

 残された課題は、内に向いては生命と意識の誕生のなぞであり、外に向いては宇宙のなぞであろう。科学がすべての謎を解明するのか否か、僕にはわからない(個人的には否定的である)が、人類の探求の物語は、わくわくせずには見ることはできない。高校生の時見た『2001年宇宙の旅』の壮大で神秘的なイメージが脳裏によみがえる。ワインバーグは、アリストテレス的な目的観をきびしく排除するが、僕としては、以前紹介したテイヤール・ド・シャルダンの『現象としての人間』に展開される、無機物から有機物、そして精神、ついに神につながるという考え方に魅力を感じているのも事実である。

 僕自身は、一介の凡庸な庶民ではあるが、僕なりのささやかな脳みそでもってであっても、数学、物理、哲学、文学、美術、神学の謦咳に触れ、これらにバランスの取れた学び、感じ方考え方を身につけたいものだと思っている。

会計事務所と経営コンサルティングの融合

御堂筋税理士法人&組織デザイン研究所

小笠原 でした。

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